彼岸の光

何時の間にか、彼の全生涯は、尊き菩薩の聖壇におかれた。

この仏心によって浄化された人間ならぬ人間には、敵の刃さえ向けようがなかった。


彼の大菩提心も、大願成就も、もとは彼の半生の大罪悪から生れた。

救われたとは死んでいた過去が生きて来たものを言うことである。


彼の過去は全く清められた。
彼は今、崇高なる大歓喜の中に敵の心さえ融かして行った。


一切の恩讐を超えた彼方に、万人共に生くべき世界がある。

彼はその世界の不滅の光を生きていた。


ああ、彼岸。

そこからは万人の上に不断に何ものかが流れ、おとづれ、よびかけている。

この光に生きる者いくばくぞ。 

(住岡夜晃全集第10巻「恩讐の彼方に」)